LOGINジャンクアイランドに船が着岸する。 島には、ガラクタが山のように積み上げられている。ボロボロになった武器や服、手や足のちぎれた使い魔や乗り物、戦車やロボットまであった。まるでゴミの山である。このゲームではロボットを仲間にできるのだろうか? そんな疑問がトウマの脳裏には浮かんだ。 小さな島だった。島は濃い霧に包まれている。空中を飛んでいた配信用ドローンが透明になって消えた。どうやらここは配信不可エリアのようだ。 着岸すると、操舵士のおやじさんが錨を海に降ろした。 みんなで輪になって、それぞれに適したバフ料理を食べていた。島に行けば戦闘が多いのかもしれない。準備は入念にするべきだった。 魚介ラーメンをすすりつつ、トウマが口を開く。「みんな、ここからは用心してかかってくれ」「本当にウミちゃんがいるのかしら?」 ベルフラウが疑問そうに言って、カレーライスのカツをむしゃむしゃとかじった。 アイギスの鼻がひくひくと動く。「いる! かすかだけど、ウミちゃんの匂いがする」「アイ、分かるの?」 晴恋が聞いた。 アイギスがこくりと頷く。 トウマがみんなに視線を配る。「みんな、何としてでもウミを見つけるぞ」「当たり前!」 アイギスが興奮したように鼻息を荒くしていた。 食事を終える。 船にはタラップがあった。それをつたって地面へと降りる。トウマとベルフラウを先頭に島の内部を進んだ。だけど霧が濃い。モヤモヤとしており、3m先が見えなかった。何が起こっても良いように、みんなが武器を手に持っていた。 ドンと音がした。 ――蘇生クエスト、ウミの6つのクイズに全て正解する 頭上の表示を見て、トウマが顔を険しくする。「何だ?」「クイズに答えるって?」 ベルフラウが首をかしげている。 その時だ。 前方に光の柱が立った。光の柱の中から、小悪魔のような角と翼を生や
船が大きく縦に揺れた。 晴れ空が途端にどんよりと曇る。雨が降ってきていた。波は荒れ狂い、海の色が黒ずんでいく。落雷が発生して空がゴロゴロと鳴っている。嵐となった。「クラーケンが出たぞー!」 操舵室の扉を開けて、NPCの操舵士のおやじさんが叫んでいた。 トウマたちが前甲板へと駆けつける。船の舳先には巨大な青黒いイカのようなモンスターが乗り上げていた。不気味な瞳でこちらを睨みつける。船を転覆させようとしていた。 ドンと音がした。 ――クエスト、クラーケンの撃破:初めて見るタイプのボスだな。:中ボスだからそんなに強くないはず。:誰か! 釣りシステムの入手方法を知っている人はいませんか!? トウマは腕を組み、いたって焦らずに吐息した。(……ふむ) 馬車の旅では途中、敵が出てくる。船旅も同じようだった。 全員がパーティをすでに組んでいる。 ベルフラウが左手のひらを掲げて唱えた。「メイクアップ」 ステータス画面からみんなが武器を取り出している。 ニキが叫んだ。「みんな、連携を取って戦うさ!」「連携?」 ベルフラウが振り向いて唇をすぼめる。 その時、クラーケンが大きな足を上から下へと振り下ろした。身体が赤いオーラを帯びている。足が叩きつけられると同時に、大きな雷が海に落ちる。辺りが稲光に包まれた。 轟音。 光がやむと、グラスオース号の前甲板には12体のゾンビが出現している。ゾンビは船乗りのような白い服装をしており、マリンキャップをかぶっていた。だけどその服はボロボロだった。ここら一帯で死んだ船乗りたちをクラーケンが蘇らせたようだ。 ニキが声をかけた。「トウマさん、連携の指示を頼むさ」「……いきなりだな」 連携など練っていない。だけど良い提案だと思った。五人と一頭でがむしゃらに敵へ突
現実の昼食を終えてゲームに戻って来ていた。 今、トウマ、ベルフラウ、ニキは釣りをしていた。 晴恋とアイギスは釣りシステムを開放させていないため、見ているだけである。もちろんキャルル丸もだ。 木製の後甲板。船のエンジンがゴゴゴという音を響かせている。波しぶきの音も大きく、ざぶんざぶんと鳴っていた。トウマたちの上空にはカモメが集まってきており、釣れた魚を狙っている。鳴き声がこだましている。カモメが寄ってくるごとにアイギスが槍で追い払ってくれていた。 高級釣り竿を両手に持ちながら、トウマは粋な表情を浮かべる。(大漁だ!) 魚は次々にヒットしていた。アジ、シロギス、メバル、タチウオ、様々な魚を釣り上げる。五分に一匹は釣れていた。木製の床には釣れた魚が並べられており、幽霊猫のトビウオがむしゃむしゃと食べていた。 隣にいるニキが羨ましそうにこちらを見る。「トウマさん、その高級釣り竿を、ちょっと貸してくれさ」 ニキの釣り竿は初心者の釣り竿である。木の棒に糸と針がついただけの粗末な作りだった。獲物がかかる確率は低い。 トウマは微笑を浮かべつつ首を振った。「ダメだ! 今、良いところなんだ!」「ちょっとだけだって。俺っちも、もっと釣りたいよ」「もっと釣りたければ、高級釣り竿を釣るべきだな」「なんだよぉ。ケチだなー」「いま良いところなんだ! 魚がびゅんびゅんだ!」 ふとトウマの釣り竿の先がキュッとしなる。また獲物がかかったようだ。「これはデカいぞ!」 トウマがリールを巻く。糸の先のルアーについていたものは真鯛だった。:真鯛来た!:ピチピチだな。:トウマさん、調子良いですね。 トウマはるんるんとした気分で、リールを巻いて魚を引き上げる。ルアーから真鯛をはずして両手に持った。でかい! 50cmはありそうだ。「よっしゃあ!」 思わず声を上げてしまった。 トビウオが物欲しそうにこちらを見る。
グラスオース号が出航する。 アストラブール町で購入したばかりの船だった。 波しぶきを立てて、大海原へと船が進んでいた。魔導具のエンジンがゴゴゴと低い音を立てている。太陽の光に照らされて海面がキラキラと光っていた。カモメたちがクエーと鳴いている。まるでこれからの旅を祝福してくれているかのようだ。潮の香りがやけに濃かった。そして風が強い。 操舵士であるNPCのおやじさんが船の舵を切ってくれている。ジャンクアイランドへの航海マップは渡してあった。 そしてこれは余談だが、王都のある大陸へ行く際の航海マップは、おやじさんがすでに所持しているらしい。 船の名前にはギルドの名前がそのまま付けられていた。先ほどみんなで決めたことである。:行けー、グラスオース号w:目指すはジャンクアイランドですね。:ウミちゃぁぁん、いま行くから待っていてね。 船の前甲板の欄干に背中を預けてトウマは座っていた。その手にはアビリティの書がある。電子思念体を倒した時に入手したものだった。隣にはベルフラウがいる。 二人の服装は結婚式の正装から元に戻っていた。 今、トウマがアビリティを習得しようとしている。「なあ、ベルフラウ。本当に無料で、俺がこれを使ってもいいのか?」「いいのよ。だって、電子思念体を倒したのはトウマだし。あたしは指輪をもらっているから。それに、あたしはアビリティをもう覚えているし」「そうか。じゃあ、使うぞ?」「どうぞ?」「ありがとう」 トウマはステータス画面を見て、キーワードをつぶやく。「アビリティ解放」 金色のカバーの分厚い本が白い光を帯びて消える。アビリティを習得した。ステータス画面で能力をチェックする。 アビリティ、スイッチヒットポイント……HPが50%以下になると次の被弾時に相手のHPと自分のHPが入れ替わる。 アビリティ必殺技、フィールドクラック……ヴァルを消費してフィールドにご都合主義を
「ああ、知っている」 電子思念体が抑揚のない声で告げた。無機質な電子音である。 どこまでも白い空間だった。天井や壁はない。硬い床の感触だけがあった。後ろには白い扉がある。そして目の前には赤い球体、電子思念体が浮かんでいた。 トウマが急いた声で尋ねる。「ウミを生き返す方法を知っているのか?」「知りたいか?」「教えてくれ!」「このゲームの情報はヴァルだ。トウマよ、私にいくら払える?」「……何?」 トウマの眉が困ったように八の字になる。(またヴァルか!) クソゲーである。 ベルフラウが不安そうな顔を向けた。「ユウマ、どうするの?」 トウマは静かにあごを引く。「1000万ヴァルだ」「ちょっと、ユウマ! そんなにいいの?」「かまわん。ウミを生き返す方法が分かるのなら、安いもんだ」 ベルフラウは黙り込み、渋い表情で赤い球体を睨みつけた。 赤い球体が試すように聞く。「トウマよ、1000万ヴァルを払うのだな?」「ああ」「したたかな男だな。その金は、いま私を倒して入手した金だろう」「……足りないか?」「いや、いいだろう。では1000万ヴァルをもらっておく」 瞬間、トウマのステータス画面が自動で表示された。アイテム欄から1000万ヴァルが差し引かれる。トウマは腹が痛くなり、苦渋の表情を浮かべた。下唇がひきつる。 だけど、(ウミの存在は、金には変えられん)「おい、教えてくれ」「ではこれをやろう。お前たち、ジャンクアイランドへ行け」 赤い球体の手前の床が光った。一枚の羊皮紙が生まれる。 トウマは歩み寄り、その羊皮紙を拾った。「これは?」「ジャンクアイランドへの航海マップだ」「航海マ
ひたすらに白い空間が広がっていた。 天井や壁は無い。床の感触だけはあった。白い床の先に、軽自動車ほどのサイズの赤い球体が浮かんでいる。HPMPバーがあった。名前は……電子思念体。 ステータス画面からトウマはブラウンのステッキを取り出す。 ベルフラウも腰のベルトからダガーを両手に取った。(あれがボスか?) トウマの目が鋭くなる。 ベルフラウが静かに呼んだ。「ユウマ」「ああ、行ってみよう」 赤い球体に二人は近づいて行く。 ドンと音が鳴った。【制限時間、2:00】 頭上に表示されたタイマーが動き始める。どうやらこのボスを倒すまでには制限時間があるらしい。しかもたったの二分だった。 ベルフラウが頭上を見上げて焦ったようにつぶやく。「ユウマ、このタイマーって」「おそらく、二分が経過したら、負けということだろうな」「じゃあ早く倒さないと」「ああ!」 ベルフラウが右手を掲げて唱える。「メイクアップ」 小さな可愛い手鏡が生まれる。虹色の光がベルフラウの化粧のノリを上昇させた。彼女が走り出す。「行くわ!」 ベルフラウが近づくと、赤い球体の表面には×5という文字が浮かんだ。 トウマは立ち止まって凝視する。「何だ?」 ×5、という文字は何を意味しているのだろうか? ベルフラウが赤い球体を斬りつける。「ふっ!」 身体を回転させてダガーの連続攻撃を叩き込んだ。初撃はHPが少し減った。だが、攻撃を浴びせるたびに与えるダメージが少なくなっていく。「ちょっと、硬すぎるわ!」 ベルフラウが顔をしかめている。 トウマは赤い球体の表面に表示されている文字に着目した。 ×5の文字は、いま×1に変わっていた。
ついに邪蛇狩りが始まった。 満天の空の下。山の上の地面の土は硬く、背の低い雑草が絨毯のように生えている。トウマとウミは、大きな岩の後ろに隠れて山頂の様子を見守っていた。今までずっと登山して来たのだ。 ちなみに先ほど夕食を食べた。昼と同じカレーライスである。もう飽きた。 山頂にはキャンプファイヤーが焚かれているようで、その煙がモクモクと上がっている。炎の灯りに照らされて、人々の戦う様子がよく見えた。 邪蛇、グランツエル。そいつは紫色に輝く肌をした大蛇であり、電車一両ぶんほどのサイズがありそうだ。まるで龍のように美しい。右に左にうねって地面を這い、人々に襲いかかる。 人々の先頭にいる
森の道へと入った。 木の葉からこぼれる太陽の日ざし。茶色い小鳥が木枝から飛び立った。落ち葉の多い地面。空気は澄んでおり、森林浴にはもってこいだ。 森の奥へとウミはどこまでも逃げて行く。その背中をテラーウルフが追いかける。そのまた後ろをトウマが追跡するという構図だ。 可愛いは正義勢:ウミちゃん逃げて! 古参ニキ:死んだと思ったらまだ生きてる。 開けた大地にたどり着くとトウマは唱えた。安っぽい木の杖を構える。 「グラヴィティライン」 トウマの杖から青黒いロープが伸びた。テラーウルフの足に巻き付いて拘束する。 「がうばうっ!」 走っていたテラーウルフは前のめりに
ログネストの玄関は広い空間になっている。背の高い天井。タイル敷きの綺麗な床。 しかし、空気は息苦しいほど重かった。 今も、通路からドリンクを汲みに来た利用客がある。ちらりと振り返ると、寝ていないような疲れた顔をしていた。 ふと隣には男性店員に連れられた太り気味の客がやってきた。太り気味の客は男性店員に頭を下げて大声を出す。 「待ってください! あと五時間、五時間プレイできれば、ヴァルを払えそうなんです!」「お客様、すでに退室の時間でございます」 (……ヴァル?) 背中に鳥肌が立つのを感じながらユウマはカウンターに向き直る。 茶色い受付台を挟んで、ユウマの前には女性店員が立って
それは、どこにでもある小さな“シアワセ”だった。 朝。寝息を立てているユウマの肩に、妻が優しく手を置く。 「ユウマ、起きて起きて」「むにゃむにゃ、もっと寝てたい」「駄目。会社に行く時間よ」「ぐぐー、ん、朝?」 瞳を開く。目の前には妻の優しい笑顔があった。ユウマはダブルベッドから上半身を起こし、右手を口元に掲げて大あくびをする。 「ふわあ」「あら、大きなあくびですこと」「朝食は?」「出来ています。着替えて、ダイニングへ来てくださいな」「ああ、分かった」 クスッと笑って妻が部屋を出て行く。スリッパの足音が遠ざかって行った。 ユウマはベッドから出て支度をする。ワイシャ







